波郷の俳句
六月の女すわれる荒筵 紫蘇濃ゆき一途に母を恋ふ日かな 照りそめし楓の空の朝曇 遠足や出羽の童に出羽の山 春暁のまだ人ごゑをきかずめる 雁や残るものみな美しさ 名月や門の欅も武蔵ぶり 風の樹々プールの子らに騒ぎ添ふ 立春の米こぼれをり葛西橋 秋風や夢の如くに棗の実 プラタナス夜もみどりなる夏は来ぬ 君たちの恋句ばかりの夜の萩 蛍籠われに安心あらしめよ ことごとく枯れし涯なり船の中 日々名曲南瓜ばかりを食はさるる 草負うて男もどりぬ星祭 栗食むや若く哀しき背を曲げて 霜柱俳句は切字響きけり 手花火を命継ぐ如燃やすなり 昼顔のほとりによべの渚あり 天地に妻が薪割る春の暮 吹き起こる秋風鶴をあゆましむ 槇の空秋押移りゐたりけり バスを待ち大路の春をうたがはず 七夕竹惜命の文字隠れなし 芍薬や枕の下の金減りゆく 胸の上に雁ゆきし空残りけり 黄菊白菊自前の呼吸すぐあへぐ 蝉の朝愛憎は悉く我に還る 秋の暮れ溲罎泉のこゑをなす 牛の顔大いなるとき青梅落つ 日出前五月のポスト町に町に 牡丹雪その夜の妻のにほふかな 坂の上たそがれ長き五月憂し 糸長き蓑虫安静時間過ぐ 春夕べ襖に手かけ母来給ふ うつむきて歩くや蓼の花 優曇華や昨日の如き熱の中 くらがりの合歓を知りゐる端居かな 夜桜やうらわかき月本郷に 雀らも海かけて飛べ吹流し 噴水のしぶけり四方に風の街
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